ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
「今日、髪洗って?」

「えぇ? また?」

言うこと聞いて欲しいならそれくらい…

「……のぼせちゃうから、ダメ。
絶対、髪洗うだけじゃ済まないもの。」

「うわ、その上目遣い反則…
灯里、可愛い…。」
 
おっと、心の声が漏れた。
当たり前だろ。
髪を洗ってもらうんだ。
お返しに全身洗ってあげないとな。
俺は礼を尽くす男だ。
いや、その前にこの可愛い唇をいただかないと…………




「……もうっ!
ずっとこんなんじゃ、お祝い出来ないじゃない!
ほら、出来たから食べるよ?」

ご飯なんて後でも……

いや、ここは一旦引こう。
俺は今、駆け引きを学んでいるところだ。
ここでお預けを食らっては大変だ。

素直にダイニングテーブルに移動する。

「フフフ…彬良、だーい好き!」

なに⁉︎

「灯里! やっぱり先にベッド…」

「それはダメ。
……髪は洗ってあげるから。
食べるよ。」

よし!
勝者、俺‼︎

「はい。彬良、お誕生日おめでとう!」

「ありがとう。」

まずは俺の好きな冷えた白ワインで乾杯。
灯里、やっぱりよくわかってるな。

お楽しみが待ってるかと思うと、
ご飯の進みも早い。
もちろん、ちゃんと味わっている。
灯里が俺のために作ってくれた
誕生日メニュー。
俺の大大好物の、チキンのトマト煮込みだ。
とろけるほど柔らかく煮たチキンに
これまたとろけたチーズがたっぷりかかっている。
美味い。
実に美味い。
灯里を見ると、とろけたチーズの伸びと格闘している。
可愛い…
やっぱり灯里を食べてしまいたい。



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