ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
「……え、と。ゴメン。覚えてない…
君の名前は?」

正直に言ったのが良かったのか、前の女子は怒らず、にっこり笑ってこう言った。

「平田灯里よ。
私達、うんと小さい頃に会ってるわよ。
父親同士が親友だから。」

あ!そうか!
K大の平田教授の娘だ。

「平田教授の…。
確かに会ってるね。
正直、いつだったか思い出せないけど。」

「父親達の恩師の喜寿のお祝いの時よ。
奥さんと子供達も連れて参加が鉄則だったの。」

なんでそんなこと知ってるんだ?
コイツも小さかったはず…。

「私、記憶力は良くて。
3歳以降のことなら大体覚えてるの。」

……スゲー。
純粋に尊敬した。
俺はガリ勉タイプだから、そう言う天才肌にどうも憧れが強い。

それにしても、俺がここに入学出来たのは、そのガリ勉の賜物だが、コイツはひょっとして、めちゃくちゃ賢くて、苦もなくここまで来たんじゃないだろうか。

「1年間、よろしくね!
彬良は理系に進むわよね、きっと。
私は文系だから、来年は違うクラスになると思うけど。」

ん?サラッと呼び捨てされたが…まあいい。
ドキッとしたのも気のせいだ。うん。

「もう進路、決めてるんだ。
よっぽど行きたい大学か学部があるの?」

「うーん…。
そう言うわけじゃないのよ。
……まあ、いずれわかるわ。」

と、答えを先送りされた。

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