ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
そこで、廣澤院長が、声をかけてくれたのだ。
僕の秘書にならないか?と。
私は一も二もなくその話に飛びついた。
廣澤総合病院は県内屈指の大病院だ。
就活もせず、そんな大病院の秘書をできるなんて!…と、喜んだ。
しかし、それには少々問題があった…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇





歳の離れた弟、健心(けんしん)は当時まだ小学6年生になったところで、中学受験をする為に頑張っていた。
しかし、この先、私立に通わせる余裕はない。
迷った末、ランクを下げて、スカラシップが取れる学校を狙い、希望通り授業料全額免除を勝ち取った。
もちろん、毎年審査はあるが、今現在に至るまで、トップの成績を守っている。
我が家に塾へ通わせる余裕はない為、理系科目以外は私が勉強をみてきた。

現在高校1年生。
父と同じ道を目指す弟。
やはり来年には、どこか予備校に通わせてやりたいと思っている。

そう。
院長秘書の問題点。

それは………

とんでもなく給与が低いのだ。

私の出た大学の卒業生が手にする初任給で、ここまで低い人はいないだろう。

年度が変わる毎に、申し訳程度、月給をアップしてくれてはいるが、やっぱり低すぎる。

医療関係の事務の相場は低いものと決まっているので、文句も言えない。

そもそも、就活できなかった私を拾ってくれたのだ。
世間一般に見れば、大変聞こえの良い職業だし、廣澤院長への恩もある。
辞める気はさらさらない。

………でも…

今のままでは、弟の未来が………。






そこで私は考えたのだ。

1年間、副業をして予備校代を稼ごうと。
1年コツコツ貯めたら、なんとか予備校に行かせることも出来るはず。

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