ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
だよな。昔から小賢しいヤツだったけど、
自信に溢れてる。
それも自身の能力に裏付けされた自信だ。

「…ま、そうだろうとは思った。
相変わらず、灯里の前では可愛い弟演じてるんだろ?」

「人聞き悪いなぁ。
灯里の前だと自然と大切にしたくなるだけだよ。」

まあ、それも事実だろう。

「お前に言っておく事がある。
灯里はお前が可愛くて仕方がない。昔からだ。
家族として、人並みのことをしてやりたいと
考えている。
さっき言った予備校もその一つだ。
どうしても行かせてやりたいらしい。
お前…行きたいと思うか?」

「…あれか?今バイトしてるやつ。
うちに予備校行くような金はないからな。」

やっぱり…すぐ気付いたか。
灯里のバイトが、予備校に通わせる資金を貯める為だって。

宝くじに当たったなんて嘘、この弟にバレないわけがない。

「灯里が楽しそうだから、反対しなかっただけだ。せっかくの語学力が今のままじゃ無駄だろ?
別にその金で予備校に行くつもりはないよ。」

……くノ一カフェのことは気付いてなさそうだな。フランス語会話の話、信じてるみたいだ。

「そうか。わかった。
でも…灯里の家族としての気持ちも考えてやれよ?簡単に拒否できると思うな。
なんなら、俺を使ってもいい。」

「は?何?どういうこと?」

「だから、いざお金が溜まって、

『そろそろ予備校に行きなさい。
お金なら大丈夫。宝くじにあたったのよ!』

と言われたら、お前、断れるか?
しかもその金は宝くじじゃなくて、バイト代をコツコツ貯めたものだとお前は知ってる。
一年かけて資金貯められてからじゃ遅くないか?俺ならせっかくの気持ちを踏み躙るようで無理だな。断れない。」

あ、黙った。
そこまでは考えてなかったか。

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