ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
「まさか、自覚なかったの?
あり得ないよね?
父さんが亡くなって、確かに就活期間は逃してしまった。経済的に、院に進むことも出来ない。
けど、灯里の実力ならアルバイトから始めても、派遣だったとしても、どこでも取ってくれたと思う。旅行会社なら、4ヶ国語話せる灯里は貴重だろ? 教職を活かして、教師や講師になる手もあった。
なのに、廣澤家が親切にも介入したお陰で、灯里は自身の経歴を一切活かせない、院長秘書になった。
それも若くて、女にとって1番輝いているこの4年間だ。
灯里は恩を感じて尽くしてるみたいだけどね。
俺には飼い殺しとしか思えない。
アンタが研修から戻ってきたら、どう動くんだろうかって、一応、期待してたよ?
……もし、今言ったこと、1つでも間違ってるって言うなら、灯里は今すぐ廣澤総合病院を辞めさせるよ。
なに、手はある。
灯里のためなら、付きっきりの看病が必要な病気にだってなるよ。そうしたら、看病のために辞めざるをえないよね?」

「……」

本当に、言葉が出てこない……。
一つも間違ってないからだ。
健心の言うことは正しい。

「…いや、お前の言う通りだ。
親父達は、いずれ俺の嫁にする為に、灯里を引き取った。紛れもない事実だよ。
実際、院内でも、そう認識されてる。
でもな、恩を着せるとか、そんなんじゃない。
灯里のことは、本当の娘のように可愛がってるんだ。それだけはわかってくれ。」
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