ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
最初は軽い気持ちだった。
健心とするのと変わりないと思ったから。

でも、3年間も“キスフレ”の関係が続いたのは、彬良だから。
彬良がキスしてくれるのが嬉しかったから。
私を大切に思ってくれているのが伝わってきたから。
自惚れじゃなく、お互いが想いあっていたと思う。
お互い、幼すぎて、不器用すぎて、言葉が足りなかっただけ。

昨日だって、彬良が私をずっと気に掛けていてくれたのがわかって、嬉しかった。
あのキスだって、絶対ただの報酬じゃない。だったらあんなに優しい、でも切ないようなキスにならない…と思う。
宝物のように抱きしめてくれた。
恋愛経験のないに等しい私にだって、
それくらいわかる。
また私を大切に想ってくれている。

どうして心変わりしたんだろう?
大学に入学した途端、どうして心変わりしたの?
知りたい。
怖いけど、傷つくかもしれないけど…
それでも知りたい。

私の知らないところで、大人のキスをするようになってた…
どうして私じゃダメだったんだろう…

昨日のキスは嬉しくて、でもやっぱり切なかった。
私の知らない彬良がいて。
彬良の過去に嫉妬した。
心がシクシク泣いているみたいに、辛くて…
なかなか寝付けなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「灯里ちゃん!」

「修司先生。
おはようございます。
昨日はご馳走さまでした。
健心もすっごく喜んでました。」

院長室を出たところで修司先生に出会った。
とりあえず、昨日のお礼を言わなきゃ。

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