不倫の代償

「相手の弁護士から 向こうの要望を 言ってきて。」

そこで博幸は 言葉を切る。

私は 目を逸らさずに 頷く。

「向こうは 籍を抜きたくないって言うんだ。」

私は やっぱり俯いてしまう。

そうだよね…

私達 もう 終わりだね…

胸が ギューッと痛くなって。

私は 両手を強く握る。


「その代わり 慰謝料も養育費も いらないって。俺は 自由にして構わないって言うんだ。ただ 下の子が20才になるまで。籍だけ そのままにしておけば。」

「どういうこと?」

「俺は 家を出て ずっと雪穂と暮らして。お金も 全部 自由に使っていいけど。雪穂と結婚することは できないんだ。戸籍上は。」

「そんなこと…」

そんなことして 奥さんは 満足なの?

ただ 戸籍だけの妻でも 手放さないの?

私を 妻にしないために…


「どうしても 籍を抜くなら 雪穂にも 慰謝料を請求するって言うんだ。もちろん 俺にも 慰謝料と養育費を 請求するし。」

私は 博幸の家庭を 滅茶苦茶にしたのだから。

慰謝料を 請求されても 仕方ない。

それで 離婚に応じてくれるのなら。


「私 それは覚悟していたから。少しは貯金もあるし。足りない分は 借金してでも 支払うから…」

だから きちんと離婚してほしい。

いくら戸籍上でも いつまでも 繋がっているなんて。


「俺も 雪穂と同じように 思ったよ。でも 俺の弁護士は 違う意見なんだ。向こうの条件が 戸籍だけなら その方がいいって。籍は抜かなくても 俺に夫の権利を要求しないこと、下の子が20才になったら 必ず籍を抜くことを 書面に残して。あと13年。雪穂は 入籍できないけど。2人の生活は その方が 守られるって。」

「でも。私達 子供も作れないでしょう?」

「俺の籍には 入れられないけど。認知はできるから。」

「苗字は?私と子供は 戸村で 博幸だけ 田所だよね?」

「俺の離婚が 成立して 雪穂と結婚したら 俺が戸村を名乗ればいいって。そうすれば 子供の苗字を 途中で変えなくて済むって。」

「でも…私 ずっと不倫相手のままだよね?それじゃ。」

「戸籍以外は 普通に 夫婦として 生活できるって。今は 色々な形の夫婦がいるから。こだわらなければ その方がいいかもしれないって。弁護士の先生は 言うんだ。向こうが 意地になって 籍にこだわるのなら 俺達は そこだけ譲歩して 雪穂と2人の生活を 確率するのも 一つだって言われて。」

博幸は じっと私の目を 見つめた。



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