チヤホヤされてますが童貞です
マネージャーの思惑
女性が苦手ということが他人にバレて、早1週間。
毎週火曜夜11時から放送される恋愛ドラマの主演に抜擢されたのは大変喜ばしいことなのだが…
「愛華を演じさせてもらいます。佐嘉峰 凛です」
「渚を演じます…。新津 綾斗です。」
よりによって一番共演したくない相手がヒロイン役を演じる。
このドラマは暗い過去を背負った渚が優しく真っ直ぐな高校の同級生愛華と再会して救われ、惹かれ合うラブストーリー。
「………この間の撮影に引き続き、今回もよろしくお願いします…!」
「はっはい!」
(別に女性慣れしてないってバレるくらい気にしてないし…! 平気平気…。平常心…。)
思い込みである。ものすごく気にしている。
それに自慰行為のオカズにしたことの後ろめたさも感じていた。
(本当にごめんなさい…)
心の中で真剣に謝りつつ、役に入るために深呼吸を行った。
その30分後、不穏な空気を纏ったまま撮影が始まる。
『ねぇ…俺のこと好きなんだろ…?』
『は?どこから来るの?その自信!』
「カットー!」
カツンというプラスチックが打つかり響かせる音と共に演技は中断させられる。
「ん〜ちょっと硬いな」
監督は険しい表情。
いつもなら相手のペースに呑み込まれて出来る(とは言え不安定な)演技だが、今回は台詞に上手く心情が合わさらない。
その日の撮影はNGの連発だった。
集中出来てないことは綾斗自身よくわかってる。
自分に恋愛経験が少ないせいでどのような表情をしたら良いのかわからなくなってしまっていた。