人魚姫〜もしも人魚姫と王子様の立場が逆だったら〜【不定期更新中】
文通は1ヶ月ほど続きました。
‘そんな話は今まで聞いたことがありません。その方は、とても可愛らしい人なんでしょうね。’
‘いえ、そうでもないんです。’
‘ご自分のお姉さんだからってそんなに謙遜しないでください。そんなドラマチックな恋愛、私もいつかしてみたいものです。’
‘謙遜ではないんです。ドラマチックでもありません。海の中はそういうことはよくありますし。’
‘海の中ですか? 海の中で出会ったんですか?’
‘一応、そうです。’
海に来る彼女はだんだん不思議に思い始めました。
「相手の方は時々不思議なことをおっしゃるわ。それに、こんなに長く文通させていただいているのに姿を見たこともない…。そんなに早くから書きにいらっしゃっているということなのかしら」
海の中の人魚はドキッとします。
彼女が文章を書いてくれている間中、人魚は彼女の横顔を眺めているので、聞こえてしまったのです。
不思議がられている…。
彼女は立ち上がり、元来た方へ帰っていきます。
「…良いわよね。書いても」
彼女の文章にしては珍しく、長い文章でした。
最初に書いてもらった文章よりも長いようです。
‘あなたとあなたのお姉さんのお話を聞かせていただいたので、今度は私の話をしましょう。私はこの国の王の娘です。私には、友達と言える方がいません。’
書き終えるといつもより時間を使ってしまったためにか、少し急いだ様子で海を立ち去りました。
「初めてこんなに詳しい話をしてくれた」
人魚は嬉しそうに顔を綻ばせて、さっそく読み出しました。
そしてその頃、彼女は海から離れた、広くて長い廊下にいました。
「……書きすぎてしまったかしら」
呟くと同時に、慌てた様子の男が彼女に話しかけます。
「どこへ行かれていたのですか。最近、無断で出かけることが多いようです。出かけるのなら、護衛をつけねばなりません」
早口ですが、敬語は忘れません。
「…いいのよ。すぐそこへ出かけるだけだから」
「ですが! あなたはこの国にとって大事な人なのですよ。自覚を持ってください」
「あら、自覚ならしっかり持っているわ。フィンが慎重なだけよ。あんまりそういうふうに扱われると、いつか国民の気持ちのわからない横暴なお姫様になってしまうわ」
「姫様ならそんな心配、いりませんから」