レーセル帝国物語 皇帝陛下に見初められた侍女見習い
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「――ただいま,アリサ」
なぜだか火照っていた顔の熱を少し夜風で冷ましてから,わたしは宿舎の部屋に戻った。
「お帰りなさい,イライザ。どこに行ってたの?」
アリサは怒ってはいないようだった。そして,彼女が何も言わないところを見るに,私の顔の火照りはどうにか収まっていたらしい。
「ちょっと,中庭に。……ああ,そうだ。そこでレオン様にお会いしたのよ」
「えっ!?"レオン様"ってあの男!?夕方の。まさか,密会していたの?」
「違うわよ!偶然……だと思うけど」
わたしはそう思っている。あの方がわたしを偶然見かけて,お声をかけて下さったのだと。でも,彼の方はわたしだと分かっていてお声をかけてきたかもしれない。
「なによ?その"だと思う”って。煮え切らないわねえ」
「だって……,あの方がどういうお気持ちかなんて……。あ」