生贄の花嫁      〜Lost girl〜
プロローグ
チュンチュン

「…ん~…もう朝か?」


鳥の声で毎日朝を迎える。布団の中で大きく伸びをすると、頭の中がすっきりして……今日も頑張っていこうと思える。
カーテンの隙間から入り込んでくる日の光は、とても眩しくて気持ちがいい。

コンコン


「お嬢様、失礼いたします。」


茶色く大きな扉から、爺やの声が聞こえる。爺やは、我が白梨(はくり)家の古株執事であり、私の世話を担っている。
毎日朝から夜まで私の世話をしている大切な家族の一員だ。


「爺や、今朝はアールグレイが飲みたいわ。お願いできる?」

「かしこまりました。お嬢様がお好きなアールグレイを用意させていただきますので、その間にお召しかえなされてはいかがですか?」

「ええ、そうするわ。本日の予定は?」


白いレースのブラウスに袖を通しながら爺やに今日の予定を聞く。これが私の1日の始まり。


「本日は、午前9:00より英語のお勉強でございます。12:00から旦那様との会食をおこないまして、午後は明日の舞踏会に向けてのドレス選びがございます。」

「そう…今日は予定が少ないのね。わかったわ。爺や、紅茶を。」
「はい、お嬢様。」


爺やから紅茶のカップを受け取り口をつける。ほんのり香る甘い香りが私に癒しを与えてくれる。


「やはり、爺やの入れた紅茶は格別だな。」
「恐れ入ります。」


ボーン ボーン

時計の針が9:00を指す。白梨家では家庭教師を雇い勉強を行う。だから、私は学校などという場所に行ったことはない。
今日もお父様が雇った家庭教師、森山に勉強を教わる。さすがに毎日顔を合わせると飽きてくるが……


「お嬢様、聞いておられますか?そこは副詞が打消しの意味を含んでいるので、お嬢様の訳し方では間違いになってしまいます。ですから、この場合ジョンは人生で料理をほとんどしたことが無い…となります。」


ジョンが料理をしたかどうかなんて、私からしたらどうでもいい。そんなことより、明日の舞踏会のことで頭の中が埋め尽くされている。人生で初めての舞踏会。ドレスを着て衣装で着飾る。女として生まれたからには必ずこなさなければならない享楽の1つであり、社交界への華々しい入り口。大人の女性へと生まれかわる大切なしきたり。



「わかっているわ、森山。今日はあまり頭が働かなくて集中することができないの。だからあまり広い範囲にしないでいただける?」

「わかりました…でしたら、本日はお嬢様の苦手な範囲の勉強とでもいたしましょうか。」
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