生贄の花嫁      〜Lost girl〜
奏が今から話すことはきっと心が切なくなる話。そんな気がした。奏の瞳はいつも以上に真剣で…でも……どこか遠くを見つめている。


「僕ね……花月のこと好きだよ。大好きだよ。でもね…僕の好きは、自分が満足するための好きだったんだ。花月の反応とか会話とかすごく楽しかった。少しずつ心を開いてくれるのが嬉しかった。でも、花月を女の子として見始めた時には既にライバルがたくさんいた。その時からかな、僕の花月に対する好きが変わっちゃったのは。ただの嫉妬だったら笑って話せることだった。思春期のいい思い出になるって思えたかもしれない。でも、僕は気が付いたら恋愛としての好きじゃなくて花月を好きでいる自分、何でもできる『僕』に浸ってた。僕は正しい、僕は勝っている。そう思ってただ満足していただけ。」


「でもそれでも…私は、奏のこと好きだよ。」

「違うよ。花月はまだ気づいていないのかもしれないけれど、花月の気持ちは僕じゃない人に向いている。僕に向けられているのは友達、家族としての好き。恋愛としての好きじゃないんだよ。」


「それは……誰なの…?私は…皆のこと好きだよ。」

「きっと、花月がそれに気づくのはまだ先のことだと思う。本当は今すぐにでも教えてあげたいけど、それは花月自身が自分で気づかなきゃいけないことだから……僕は何も言えない。だから僕はこれからは家族として……支える側として花月を好きでいたい。花月のために背中を押して一緒にいるべき相手と幸せになってほしい。これが僕の花月への好きっていう気持ちでありたい。」


「家族としての好き……になっても今までと変わらない…?またたくさん話したり、笑いあったりできる……?」

「うん……できるよ。見栄も張らないしお互いに無理をしないでいられる。そういう関係を作っていきたいよ。」


奏の口から告げられた言葉は寂しくて遠くなってしまいそうで悲しい。でも……これは奏が自分で考えて選んだ道だから……だから、私も受け止めなければいけないんだ。


「うん……。大切な家族として……私も奏のために何か力になれたらいいな…。」


友達としての好き、家族としての好き、恋人としての好き。好きにはたくさんの種類があって……必ずしも自分が望む好きにはならない。


でも…相手のことを大切に思って時間を共有していきたい。そうすればきっと……ずっと前を向いていける。
< 161 / 313 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop