生贄の花嫁 〜Lost girl〜

理事長さんはそれだけ言い残すと、教室を去っていってしまった。


「お父様に言い返したの、あんたが初めてよ。皆、表では気持ちの悪い笑顔を浮かべて裏では陰口をたたいていたわ。」

「そうですか…？」



「花月ちゃん、本当にごめんなさい。迷惑かけて…嫌な思いさせて…本当にごめんなさい。」
「あんな嫌な言い方して悪かったよ。ごめん。」

「……やっと、結愛ちゃんとあずさちゃん自身が見えましたね。また仲良くしていただければ嬉しいです。」


「結愛…あずさ…今日でペットは解放するわ……。もう……私にはそんなことをできる立場がないから…。」



「……それなら、友達としてやり直せばいいんじゃないですか…？」

「は！？友達なんて私にはいらない。」


「と言っていますけれど、どうします…？」





「花月、あんたは強いね。そりゃ、あんだけ突き放しても負けないわけだわ。」

「今すぐには難しいけど……いつか気持ちの整理がついたら…考えてみるよ。ありがとう…花月ちゃん。」


「……いえ…友達として当然のことです。」






「花月…楓…本当にすまなかった。今回のことは全部俺がまいた種だ。俺が今まで優柔不断に生きてきたことが原因だ。本当にすまない。」

「聖は……この人が好きなの…？」
「…ああ。」

「結婚したいくらい好きなの…？」
「…ああ…って、え……。」


「私との婚約を解消したっていうのはそういうことでしょ。私にもそれくらい……わかるもん。」

「…お前にも…いつか心から好きになれるやつが現れる。そいつと幸せな婚約ができることを願ってる。」





「んんんっ。私たち、いるんだけど……。」

「花月、緑川くんと結婚するの？」
「え、いや、私はその……。」


「花月は俺と結婚すんだよ。聖なんかに任せられるか。」

「何堂々と公開発言してるわけ。大体、あんたたちに花月を渡せるわけないでしょ。」



「花月ちゃん、赤羽くんよりは緑川くんのほうがいいと思うよ。」
「いや、だから私は……」




「スー……。」

「楓様、眠ってる……。」

「寝顔は年相応だね。」


「……きっと疲れたんですよ。たくさんのことがありましたから。」

「ていうか、本当にそいつ引き取るのかよ。マジで手かかるぞ。それに悠夜たちが……。」


「うーん…それは……」

「それは…？」


「お願いするしかないですね。」

「…俺も協力する……。」


「得点稼ぐなよ。俺が言えばあいつらも……」



「藤林先輩も黄之竹先輩も大変だね、こんなのと一緒に暮らしてたら。」
「んだと…。」



誰も気がつかなかったみたいだけれど、劉磨さんが話していた時、楓さんの手がかすかに震えていた。きっと彼女自身も不安がまだあるのだと思う。それでも……少しでも…信じてもらえるように…安心してもらえるように尽くしたい。

彼女が彼女自身を取り戻せるように……