生贄の花嫁      〜Lost girl〜
目を覚ますと見慣れた天井があった。

「花月、僕が分かる?」
「桃瀬…さん…?」
「よかった~。花月、2日間眠り続けてたんだよ。」

「脈も安定していますしもう大丈夫でしょう。」

「劉磨が怖い思いさせて悪かったな…。」


そうだ…劉磨さんに血を…。


「劉磨さんは…?」
「大丈夫よ。花月チャンの血を吸って今は眠ってる。」
「そうですか…。」

「1週間の停学処分を言い渡されましたけどね。」
「停学…?それってどういうことですか…?」
「1週間は自宅待機ということです。」

「なんで…私の血を吸っただけなのに…。」
「だからだ。あの学校は吸血鬼が通う学校。他の吸血鬼が暴動を起こさないようにするために、学校内では吸血行為は禁止されている。とくに花月みたいな人間の血を吸うことは。」

「吸血鬼の…学校…だったんですか…。」
「隠しててゴメン。でも…いや…今は言い訳なんかずるいよね。」

「退学にならなかっただけいい方です。まったく…劉磨ときたら。」

「劉磨さんは悪くないんです!私が…血を吸ってなんて…言ったから…。」
「お前が…血を吸うように言ったのか…?」

「劉磨さんを…助けたかったから…。それなのに…私のせいで…。」

「とにかく、貴女の血の匂いが全校生徒に知れ渡ってしまった。これから貴女の身は危険にさらされるでしょう。殺される可能性も…。」
「そんな…。」

「大丈夫…僕たちがきちんと守るから。」

桃瀬さんが必死に大丈夫、大丈夫と宥めてくれる。だけど大丈夫じゃないことくらい私にも分かる。

怖い…考えてもいなかった。自分がしたことがこんなにも大きな事態を招いてしまうなんて…

「今の貴女の慰めになるかは分かりませんが…今回のことで貴女が死ぬことも、吸血鬼になることも決してありません。血を吸っただけで貴女には必要最低限のDNAしか移っていませんので。ですから貴女の体は人間のままです。」

それを聞いて少しだけほっとする。

でも、もしDNAがたくさん移ったら…血をたくさん吸われたら……私は死ぬの……?


「めったなことではDNAは移らないわ。というより、DNAがたくさん移る方法は、セックスくらいしか…。」
「ちょっと、泰輝はデリカシーなさすぎ。せめて営みって言ってよ。」
「い、営みって…。」

「僕たちは無理強いしたりしないから安心して…でも、もし、花月が誰かを…僕たちの誰かを好きになってくれたらって話だから。」

よしよしと頭をなでてくれる。恐怖と温もりと優しさが伝わってくる。


私が誰かを好きになる日は来るのかな……?
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