生贄の花嫁      〜Lost girl〜
「ねえ……本当に来てるよ、どうする?」

「でも理事長の娘だし……。」



お客様の動きが落ち着いたころ、教室のドアの向こうからひそひそと話す声が聞こえてきた。


なんだか……こういう空気、好きじゃない……。


「あの……何か御用……」

「……花月……。」
「楓ちゃん……?」




「理事長の娘と話してる子って人間の子だよね…?花嫁候補の……。」
「そうそう、たしか白梨花月さんだよね。」

「楓ちゃん、来てくれてありがとう!」
「……約束…したから……。」





「理事長の娘ってさ、裏でペット制度してるんだろ。白梨さんもいじめられるんじゃ……。」
「理事長の娘だからって調子乗りすぎだよね。」
「でも理事長の娘だぜ。とりあえず白梨さんから放さねえと……。」
「そういえば私の友達がさ、理事長の娘に虐められて転校したんだよね。」
「ペット制度やってるのは知っていたけど性格悪すぎ。ただのガキじゃん。」
「自分が偉いって勘違いしてるんじゃないの?理事長の娘ってだけじゃん。」



「……私…やっぱり帰る。ごめんね、花月。」
「あ、待って、楓ちゃ……」



私の前から去ってしまう楓ちゃん。その姿が遠くなるにつれて近づいてくる周りの人たち。


「白梨さん、大丈夫だった!?」
「理事長の娘、ヤバいって噂だから気を付けたほうがいいよ。」
「白梨さんも虐められちゃうよ。理事長の娘だからって気にしないでね。」




「吐き気がする……。」
「え……?」


「なんで……誰も楓ちゃんのことを名前で呼んであげないんですか……?なんで煙たがるようなことをするんですか……?なんで誰も彼女のことを受け止めてあげないんですか!?」

「ちょ、ちょっと、だって理事長の娘だよ。あんなやついない方が……。」

「そうだよ、あいつヤバいって噂だし関わらないほうが……」


「あの子の名前は、“あいつ”でも“理事長の娘”でも”あんなやつ”でもない。朱鷺院楓っていう立派な名前があって、1人の女の子です。貴方たちが発する“理事長の娘”が彼女にとってどれだけ重くのしかかっているのか考えてくださいよ。楓ちゃんだって……好きで理事長の娘になったわけじゃない。楓ちゃんが今までやったことを全て許してほしいだなんて言いません。1度やってしまったことを消し去ることはできませんから。それにきっと、彼女もそんなこと望んでいない……。でも……誰でも…1人だけでもいいから……彼女の変化を…彼女の心を見てあげてください。本当に彼女は皆さんにとって不都合なことしかしませんか?本当に彼女がいてはいけない理由がありますか……?」
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