生贄の花嫁      〜Lost girl〜
―回想―

―悠夜side—


「あんなに子供が幼いのに大変ね、黄之竹さんのお家。お母様、突発性の心臓病だって言うじゃない。吸血鬼なのに病死するだなんて、よほどのことよね。」


「泰揮、お母さんの棺から離れなさい。」
「嫌だ……もうお母様と会えなくなるなんて僕は嫌だ。」



教会での用事を済ませた帰り、棺から一向に離れようとしない男の子を見かけた。参列者の様子からして葬儀が行われ死者が弔われ最期の別れを惜しんでいる。


その中で泣き叫ぶ1人の男の子。


「さあ、もう離れるんだ。早く帰って仕事をしなくてはいけないんだ。」
「お父様は……悲しくないの…?」

「私には……やるべきことがあるんだ。それに、男たるもの簡単に涙を流すべきではない。泣き叫ぶというのは弱い者がする行為だ。そんなもの男ではない。帰るぞ。」


今時そんな古臭い教えを強要する大人がいるものか。確かに簡単に涙は見せるべきものではない。泣いて取り戻すことができる世界なら誰も後悔などしないし感情など意味のないものとなる。



でも……



「あの……そういう教育の仕方は良くないと思います。」

「これはこれは…藤林家のご長男の悠夜様。このような場所で何を……?」

「話をすり替えないでください。確かに涙を流したからといって、亡くなった人が蘇ることは無いです。ですが、泣くという行為が恥ずべきものだというのは間違っていると思います。なぜ、男なら泣いてはいけないんですか?」


「男たるもの、家督を継ぎ家族を…屋敷を守るものだ。悠夜様も後継者候補なのですから分かるでしょう。家を継ぐ者がどのような姿であるべきかを。私は正しい教育をしているだけだ。それに、私に養われている以上、私の教えに従うのは当然のこと。」

「や、やめて……お父様。その子は関係ないんだから怒らないで。僕、もう泣かないから、家に帰るから……いい子になるから。」

「そうだ……それでこそ私の子だ。」








「……貴方はそれで幸せなのですか?」
「何を言う幸せに決まって……」


「貴方ではありません。黄之竹泰揮、貴方に問いているのです。」

「ぼ、僕は……。」


「黄之竹伯爵、泰揮くんを1週間だけ私の屋敷に招待させていただけないでしょうか?」
「全く、いくら同じ伯爵家の息子だからといって何でもできると思ったら大間違……」


「私ならできますよ。貴方が望む泰揮くんにすることを……1週間という猶予で。」

「バカバカしい、子どもはこれだから困る。どんなことでも簡単にできると思い、図に乗る。」


「できますよ。そうですね……もし出来なかったら、私にできることでしたら何でもいたしましょう。貴方が望むのであれば継承者候補からも外れますし、慰謝料もお支払いいたします。ですが、もし、泰揮くんを変えることができた暁には、家を出て継承者候補でのシェアハウスを許可していただきたい。」


こんな冗談交じりの口車、この親なら簡単に乗ってくるだろう。




「う……まあ、やれるものならやってもらいたいね。」
「さあ、行くよ、泰揮くん。」

「ごめんね、えっと……。」


「私の名前は藤林悠夜、貴方と同じ国王継承者候補です。」

「悠夜くん、何で君はそんなに強いの?」
「私が……強い…?」


「僕は……お父様に何も言えないもん。」

「それは貴方が立ち向かわないからです。上手く生きれば良いのですよ。今の自分が嫌なら貴方の理想の自分で生きればいい。」

「理想の僕……?」
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