生贄の花嫁      〜Lost girl〜
クラシックの演奏にあわせて優雅に舞う。そして次の男性へと移りゆく。社交ダンスはこれを繰り返す。思っていたよりダンスは楽しいが、さっきの男性のことと雪乃の話が気にかかる。女性が行方不明になるなんて……それはなんのために…?


ドンッ

考え事をしていたら何かにぶつかり足をすべらせてしまった。目の前に立っていた男性が私の身体を支えてくれる。

「すみません…ありがとうございま…ひっ!」

お礼を言おうと男性の顔を見ると、耳には複数のピアスがついていた。そして人間とは思えないほど青く光る瞳。不気味というか恐怖心を煽られる。


「お前が今夜のエサか……。」
「え…?」

「失礼…あまりにも美しいので見惚れてしまいました。」


私の耳元でささやく彼。

今夜のエサって何のこと…?行方不明になってる女性たちと関係が…?


「エサってなんですか…?」
「おや、感じませんか…?貴女を見つめる多くの視線を。」
「視線……?」

不気味に思い周りを見渡すと、確かにほとんどの人たちが私のことを見つめていた。見つめている…というより見定められているような気味の悪い視線。


気味が悪いのはそれだけじゃない。なによりこの視線……

「生気を感じない……。」

「それを理解できるとは……やはり変わった人間のようですね、花月さん。」
「何で私の名前…。」

「私にはすべてが見えるのです。貴女の名前も何もかも」
「見える…?」

「はい。死へのカウントダウンがね……。」



「きゃああああ!」


突然響き渡る叫ぶような声。振り返ると白いドレスを身に纏った、私が顔を良く知る女性が真っ赤に染まり倒れていた。

「雪…乃……?」

「あーあ、ダメだろ。まだ殺しちゃ。」

さっきまできれいな言葉を並べていた筈の男性の声が後ろから聞こえる。さっきとは違った汚い話し方。雪乃の元へ行こうと腕を振り払おうとしてもびくともしない力。


それに“まだ殺しちゃダメ”って……どういうこと…?


「殺すのは、この女を部屋に連れて行ってからだと言っただろ。まあ、いいや。汚いからその死体、皆で片付けといて。」
「離してください…!雪乃が……。」

「お前は、こっちだ。来い。」
「やめて!雪乃が…雪乃が…。」


強く引っ張られた腕を振り払うことはできず、ダンスホールが視界から薄れていく。扉が閉まる直前に見えたのは、雪乃に群がった“化け物”たちが雪乃の体を口にしていた光景だった。
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