生贄の花嫁 〜Lost girl〜
★第10話 孤独の代償
あれからどれくらい時間がたったんだろう。時計がなく日の光も入らないこの部屋では時間なんてわからない。孤独感だけが増していく。
「花月さん、夕餉をお持ちしましたよ。」
橙さんが湯気が立っているお皿を持ってくる。でも正直食欲なんてものはない。
「いりません。」
「ここに置いておきますので食べてください。飢え死にされては困りますから。」
それだけ言うと橙さんは部屋を出て行ってしまった。人がいなくなるとまた静かになる。みんなとあんなに騒がしく過ごしていた生活がすごく懐かしい。
「みんな…会いたいよ…。」
「ずいぶんと惨めな姿ね。」
え…誰…?
目の前には体に装備を施した女性が立っていた。
「あら、わからない?まあ仕方ないわね…話はしたことあるけれど実際に会うのは初めてだものね。」
「あの…どこかでお会いしましたか?」
「覚えていない?キズよ。」
「キズ…さん?」
そうだ…キズさんは前に私の部屋で話しかけてきた…
「その顔は、思い出してくれたようね。どう?今の気分は。」
「はやく…家に帰してください。」
「家ねえ…それは彼らがいる屋敷のことかしら?あんな人たちの次の生贄になるだなんて貴女も大変ね。」
この人…どこで私が生贄であること…知ったの?生贄の花嫁っていうのはそんなにも大きなものなの…?
「最初は怖かったけど今では大切な家族です。そんな言い方しないでください。」
「あら、同情しているだけよ。家のために生贄にされて花嫁候補にされるんだもの。たまったもんじゃないわ。」
キズさんはまるで自分のことかのように言う。
「キズさんも、花嫁候補だったんですか?」
「私…?そうね…私は……だったわよ。パーティーで彼らに出会って一緒に暮らして楽しい日々だった…でも…。」
そこまでいうと言葉を濁す。気のせいかキズさんは遠い目をしている。
「でもそんな日々はすぐに終わってしまった。愛なんて…絆なんて噓だった。皆とずっと一緒にいられると言ってくれたから…一緒にいたかったから吸血鬼として生きることを決めたのに…あいつらは私を殺そうとしたわ。だから…だから私は彼らに復讐してやるの。自分たちがしたことの罪を分からせるために。」
キズさんが力いっぱい壁を殴る。その姿は私なんかでは理解し尽くすことができない強い憎しみ…そして深い悲しみを表しているようだった。
「そんな目に遭っただなんて…ひどいと思います。私にはキズさんがどれだけの傷を負っているのか、どれだけ辛い思いをしたのかまでは分かりません。きっと私も同じ目に合っていたら…恨んでしまうかもしれない。でも…復讐するなんて間違っています。」
「あなたに私の何がわかるの?何不自由なく生きてきて絶望の淵に立たされたことのないあなたみたいなお嬢様に。同情なんていらないわ。」
「たしかに私は親からお金や物をたくさん与えられて何不自由なく生きてきました。でも…それがいつ壊れるかなんてわかりません。壊れてしまえば何もかも失って…生きる意味を失って…時が止まってしまいます。でも、そこで復讐をしても何も変わらないんです。たとえ復讐をしたって楽しかった日々を取り返すことはできないんです。」
「うるさい!」
キズさんが私の首を両腕で締め付ける。首に爪が食い込み血が出ている感覚が分かる。
「復讐をしたって意味がない?楽しかった日々を取り戻すことができない?知った風な口きかないで。そんなのもうどうでもいいの。私は…私はあいつらを苦しませることができればそれでいい。」
「キズさんは…本当にそれを望んでいるんですか…?」
「え…?」
「おい、何やってるんだ…。」
「放して、輝石。」
白銀さんが私の首からキズさんの両手をはがし彼女を抑え込む。
「落ち着け、キズ。大丈夫だから。」
「……。」
「キズさんは、復讐をしたいわけじゃない。ただ誰かに……受け止めてほしいだけですよね…?」
「なんで…そう思うのよ。」
「そうでなければ、辛かったはずの思い出をそんなに細かく覚えているはずがありませんし、ほとんど面識のない私なんかに話さないでしょう。」
「知った口きかないで。」
キズさんはそれだけ言うと部屋から出て行った。その後ろ姿は悲しげで細く小さく見えた。きっとキズさんには誰かのぬくもりが必要なんだ……あの時の私と同じ。孤独に苛まれて時が止まってしまっている。
「花月さん、夕餉をお持ちしましたよ。」
橙さんが湯気が立っているお皿を持ってくる。でも正直食欲なんてものはない。
「いりません。」
「ここに置いておきますので食べてください。飢え死にされては困りますから。」
それだけ言うと橙さんは部屋を出て行ってしまった。人がいなくなるとまた静かになる。みんなとあんなに騒がしく過ごしていた生活がすごく懐かしい。
「みんな…会いたいよ…。」
「ずいぶんと惨めな姿ね。」
え…誰…?
目の前には体に装備を施した女性が立っていた。
「あら、わからない?まあ仕方ないわね…話はしたことあるけれど実際に会うのは初めてだものね。」
「あの…どこかでお会いしましたか?」
「覚えていない?キズよ。」
「キズ…さん?」
そうだ…キズさんは前に私の部屋で話しかけてきた…
「その顔は、思い出してくれたようね。どう?今の気分は。」
「はやく…家に帰してください。」
「家ねえ…それは彼らがいる屋敷のことかしら?あんな人たちの次の生贄になるだなんて貴女も大変ね。」
この人…どこで私が生贄であること…知ったの?生贄の花嫁っていうのはそんなにも大きなものなの…?
「最初は怖かったけど今では大切な家族です。そんな言い方しないでください。」
「あら、同情しているだけよ。家のために生贄にされて花嫁候補にされるんだもの。たまったもんじゃないわ。」
キズさんはまるで自分のことかのように言う。
「キズさんも、花嫁候補だったんですか?」
「私…?そうね…私は……だったわよ。パーティーで彼らに出会って一緒に暮らして楽しい日々だった…でも…。」
そこまでいうと言葉を濁す。気のせいかキズさんは遠い目をしている。
「でもそんな日々はすぐに終わってしまった。愛なんて…絆なんて噓だった。皆とずっと一緒にいられると言ってくれたから…一緒にいたかったから吸血鬼として生きることを決めたのに…あいつらは私を殺そうとしたわ。だから…だから私は彼らに復讐してやるの。自分たちがしたことの罪を分からせるために。」
キズさんが力いっぱい壁を殴る。その姿は私なんかでは理解し尽くすことができない強い憎しみ…そして深い悲しみを表しているようだった。
「そんな目に遭っただなんて…ひどいと思います。私にはキズさんがどれだけの傷を負っているのか、どれだけ辛い思いをしたのかまでは分かりません。きっと私も同じ目に合っていたら…恨んでしまうかもしれない。でも…復讐するなんて間違っています。」
「あなたに私の何がわかるの?何不自由なく生きてきて絶望の淵に立たされたことのないあなたみたいなお嬢様に。同情なんていらないわ。」
「たしかに私は親からお金や物をたくさん与えられて何不自由なく生きてきました。でも…それがいつ壊れるかなんてわかりません。壊れてしまえば何もかも失って…生きる意味を失って…時が止まってしまいます。でも、そこで復讐をしても何も変わらないんです。たとえ復讐をしたって楽しかった日々を取り返すことはできないんです。」
「うるさい!」
キズさんが私の首を両腕で締め付ける。首に爪が食い込み血が出ている感覚が分かる。
「復讐をしたって意味がない?楽しかった日々を取り戻すことができない?知った風な口きかないで。そんなのもうどうでもいいの。私は…私はあいつらを苦しませることができればそれでいい。」
「キズさんは…本当にそれを望んでいるんですか…?」
「え…?」
「おい、何やってるんだ…。」
「放して、輝石。」
白銀さんが私の首からキズさんの両手をはがし彼女を抑え込む。
「落ち着け、キズ。大丈夫だから。」
「……。」
「キズさんは、復讐をしたいわけじゃない。ただ誰かに……受け止めてほしいだけですよね…?」
「なんで…そう思うのよ。」
「そうでなければ、辛かったはずの思い出をそんなに細かく覚えているはずがありませんし、ほとんど面識のない私なんかに話さないでしょう。」
「知った口きかないで。」
キズさんはそれだけ言うと部屋から出て行った。その後ろ姿は悲しげで細く小さく見えた。きっとキズさんには誰かのぬくもりが必要なんだ……あの時の私と同じ。孤独に苛まれて時が止まってしまっている。