生贄の花嫁      〜Lost girl〜
―輝石side—

「花月、首大丈夫か?」

「少し痛みますけどたぶん大丈夫です。」


花月の様子を見に来たら、キズが彼女の首を締め上げていて驚いた。その影が俺の中の昔の記憶を呼び覚ましフラッシュバックを起こしそうになった。


「白銀さん…?どうしたんですか…?」

花月の言葉で我にかえる。過去の記憶にとらわれるところだった。

「いや、なんでもない。ちゃんと飯食えよ。」

ーーーーーーーーーーーーーーー

キズさんと白銀さんが部屋を出て時が経つ。相変わらず食欲はわかない。

私…キズさんに余計なこと言ったかな…。

今になって罪悪感が私を襲う。いくら何でも言いすぎたかもしれない。分かったような言い方をされたら誰でも腹が立つ。


「……花月…?」
「誰!?」

突然聞こえた私を呼ぶ声。一体どこから…

「イヤ…リング…。」

イヤリング…?


指を耳元へとやると僅かだがノイズの音を感じる。

ここから聞こえているの…?


「アタシよ…花月ちゃん。」
「泰揮クン!?」

「やっと…通じたわ。あんま…電波が…ないみたい…アタシの…聞いて。」
「はい…。」

泰揮クンの声が聞けて涙がこぼれる。寂しかった心が温かくなっていく。


「いま…花月チャン…ところは…なの。アタシたちの…では…行けない。貴女が…自分…逃げないと…。」
「逃げるって私1人で…?泰揮クン!?」

そこで音声が途切れてしまった。何度呼びかけても応答がない。


「誰と話していたんですか…?花月さん。」
「橙さん…。」
「今、そのイヤリングに話しかけていましたよね…?」

いつから見られていたの…?目の前にいる橙さんからは恐怖を感じる。もしかして音声が途切れたのは…この人の影響…?


「貴女が考えている通りですよ。貴女が外部と連絡をとったことで空間に淀みができた。それを感じ取った私が結界の力を強めたので音声は途切れたでしょう。」


橙さんの目…笑ってない。怖い。


「そのイヤリング…預からせてもらいましょう。勝手に外部と連絡をとられては困りますからね。」

橙さんの手が私の顔に近づく。怖くて顔を背けようとしたが彼の左手で顔を固定される。


「こんな手の込んだイヤリングを作るなど…煩わしいですね。」

私の耳からイヤリングを外すとチャイナ服の裾へ入れ私を突き飛ばした。


「死にたくなければ余計なことはしないでください。こちらとしても貴女を手にかけたくはありません。もし貴女が何かすれば私たちはそれ相応のことをしなくてはいけません。この意味…お分かりでしょう?」


それ相応のこと…。きっと私を殺す気だ。私は…どこにいても生贄なんだ。
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