生贄の花嫁      〜Lost girl〜
橙さんにイヤリングを奪われてしまい連絡の道が途絶えた。

皆、元気かな…?

ここにきてまだ間もないのに皆の様子が気になってしまう。


劉磨さん…血が足りているかな?奏…寂しがってないかな?聖さん…美味しい紅茶飲んでいるかな?
泰揮さん、まだ調べてくれているのかな?悠夜さん、また無理をしてないかな?

そんな思いが頭の中によぎる。


会いたいよ…大切な家族になれたのに……。独りは辛い…苦しい。あの時の寂しさが心の中に溢れていく。
お願いだから…私を独りにしないで……。


「花月ちゃん!」
「琉生くん…?どうしてここに…?」
「遊びに来ちゃった。ごはん…食べてないんだって?さっき輝石くんが言ってた。」
「食欲無くて…。」

「そっか……。ねえ、僕とちょっとお話ししようよ。僕、花月ちゃんのこと気になるし僕のことも知ってほしいな。」

励ましてくれているのかな…?年下の男の子とは思えないくらい頼もしく見える。

「琉生くんありがとう。でもいいの?私なんかと話していて…。」
「仲良くしているのがバレたら大変だけど大丈夫。僕が花月ちゃんのお世話係引き受けたから!僕がここにいても疑われないよ。」

「そうなんだ…。」


「僕ね、本当は花月ちゃんのこと攫うのが怖かったんだ。僕には6つ上のお姉ちゃんがいたの。もう会うことはできないんだけどね…。花月ちゃんはお姉ちゃんにどこか似ていて、ここに連れてくるとき正直辛かった…お姉ちゃんに酷いことしているみたいに思えた。だから…僕は花月ちゃんのお世話係を引き受けた。そうすれば花月ちゃんを守れるって思ったから。まだ僕は花月ちゃんの目から見れば子供かもしれないけれど、僕一生懸命守るから、辛い時は僕のこと頼ってね。」

「琉生くん、ありがとう…。」

琉生くんが本当の弟のように感じて思わず抱きしめた。それに応えるように琉生くんも私を抱きしめてくれる。



「僕がずっとそばにいるからね…花月ちゃんの不安を少しでも取り除きたい。あ、そうだ、これ返しておくね。」


そういってポケットから何かを出す。


「これ…さっきのイヤリング…?なんで琉生くんが…。」
「うん。さっき李仁くんに取られちゃったでしょ?こっそり取り返しておいた。」
「ありがとう…。」


橙さん相手にどうやって取り返したんだろう…ぬかりなさそうな人だよね…。


「皆には内緒だよ。そのイヤリング、李仁くんの結界を揺らすほど強い力があったから弱めておいた。なかなか大変だったんだからね。」

琉生くん…いったい何者なんだろう…。


「でも…僕にできることはそれだけ。僕には花月ちゃんを逃がしてあげることはできないんだ…掟に背くことになるから。」
「掟…?」

「今から話すこと、聞いてくれる?僕の生い立ちについて。」
「生い立ち…?」
「花月ちゃんも聞いたでしょ、あいつらに…下層吸血鬼の存在を…。」

そういえば、白蛇族に襲われたとき泰揮クンが言っていたかも…それに琉生くんたちが白蛇族かもしれないとも言っていた。


「僕たちは白蛇族の下層吸血鬼。そして、花月ちゃんを襲ったのも僕たち。黒鬼院様の命令で…。」
「そんなのおかしいよ!琉生くんみたいな子供にそんなことさせるなんて…。」

「普通じゃ考えられないよね。でもね……僕たちみたいに誰にも助けてもらえない…頼れる人もいない子供は命を救ってもらうために黒鬼院様と契約をして自由をつかむしかなかったんだ。命令を聞くのはその代償。」

「代償って…。」

どう考えてもこんなに幼い少年から聞く言葉ではない。生きるためにどのようなことでもする…そんな子供が今、私の前にいる。


「そもそもなんでその…黒鬼院様と契約をしなければいけなかったの…?」

「……もう2年たつかな…あの事件から…。」
「事件…?」

「あれはまだ僕がただの人間の子供だった時…僕は外国のある町で暮らしていたんだ。僕の家はあまり裕福な家庭ではなかったけれど幸せな毎日を送っていた。大好きな家族…大好きな友達…毎日が笑顔であふれていて幸せだった。……でも、ある日を境にその幸せは崩れた。突然町の子供たちが行方不明になる神隠しが起きた。」


「神隠しって…あの人が消えていく…?」

「うん。最初は減っていく子供の数も少なかった。でも日に日に神隠しに遭う子供の数は増えていき最後には僕を含めて数人しか町に子供はいなかった。これは何か悪いことが起きる前兆だと言ったパパは僕を地下室に閉じ込めた。地下室から出ることも禁止されて毎日窓から決まった時間に食事をして、閉じ籠るだけの生活。でも僕がその生活を送っている間は町には平和がありふれていた。あの晩までは…。」


琉生くんが「ちょっと話が長くなるから」とお茶を淹れてくれた。今の話からは考えられないような冷静な姿。そのカップの中を見つめ琉生くんは話を続けた。


「しばらく町が平和だったある日、僕はこっそり地下室を抜け出して外に遊びに行った。久しぶりの外は空気が良くて気持ちが良くて最高の気分だった。でも、その晩事件は起こった。僕が地下室から抜け出したことで町全体に僕の存在が知れわたり夜遅くにたくさんの客が僕の家を訪れた。僕は地下室にいてママがご飯を持ってきてくれるのを待っていた。でも…どんなに待ってもママも…パパも来なかった。どうしても気になって僕は地下室を出た。すると目の前に広がったのは真っ赤な景色。そしてその中に2足歩行の狼がいた。」
< 59 / 313 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop