生贄の花嫁      〜Lost girl〜
食事が終わり今は自分の部屋にいる。

さっきの劉磨さんの行動には驚いた。まさか指を舐められるなんて。それに……あの人たちも吸血鬼だからあんなこと……。

心のどこかで気づいていたはずなのに……安心したかったのに……吸血鬼は吸血鬼なんだね。私たち人間はエサでしかない…。


コンコンッ

誰かがノックする音が聞こえる。

誰だろう…?

「あの、どなたですか?」
「俺…聖。入ってもいいか?」

「…どうぞ。」

ドアノブに手をかけ扉を開けると、ティーセットを持っている緑川さんが立っていた。ずいぶん前から準備していたのか、紅茶のいい香りが鼻をくすぐる。


「この香り、ダージリン…?」
「わかるのか…?紅茶、好きか?俺は好きだ。」
「好きというより、毎日飲んでいたので…。」

「そうか…入っていいか?」
「どうぞ…。」

緑川さんを机に案内すると、カップを渡してくれた。紅茶の熱がカップから伝わる。

「香りは少し強いけど有名な会社の茶葉なんだ…きっと気に入る。」
「おいしい…。」
「気に入ってくれたみたいでよかった。」

私の反応がよほど嬉しかったのか、やさしくはにかむように彼は笑う。私まで幸せになりそうな可愛らしい笑顔。

「さっきは…すまなかった。」
「え…?」

「怖い思い…させただろ…“吸血鬼”のせいで。俺らも……吸血鬼なんだ。昨日のやつらと同じ…。」
「怖かった…です。怖かった…けど…でも、皆さんは…昨日の…吸血鬼とはきっと違うから…。」
「無理して気なんか遣うな。嫌なら俺、もう部屋に戻るから。」

「待って……!怖い…けど…独りになるほうが……もっと怖いから。だから…いてほしい…です…。」
「…分かった。それなら、ここにいる。お前が安心できるように。」

そう言うと緑川さんは私の頭を撫でてくれた。

そのあと彼と家族のこと、好きなことなど他愛もないことをたくさん話した。今まで信じられないものだと思っていたけれど、私と同じように家族がいること。吸血鬼であることへの思い。本当は人間の女の子をさらうのが嫌なこと。たくさんのことを聞いて、ほんの少しだけ彼らに対しての恐怖が無くなった。


「長居して悪かったな。話せて楽しかった。」
「こちらこそ…ありがとうございました。緑川さん。」

「聖でいい。俺も花月って呼ぶから。」
「聖…さん。」

「じゃあ、部屋戻るから。あ、普段は部屋の鍵かけとけよ。大丈夫だとは思うけど一応安全のために。」

「ありがとうございます、聖さん。」

そんなやり取りを終えて彼は自分の部屋に戻っていった。気づけば時計の針は20:00を回っている。


「お風呂…入らせてもらおう。」


残念ながら部屋にお風呂はついてない。お風呂の場所は部屋を案内してもらった時に緑…聖さんに教えてもらったからわかる。バスタオルと着替えを持ってお風呂場へ向かった。
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