離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「……複雑だ」


 遅くなるのはいいが、滝沢とふたりなのが気になる。が、これまでは各自自由行動だったのに、いずみの方から報告してくれたのは嬉しい。
 スマートフォンの画面を見ながら呟く。今夜は以前お世話になった輸入会社のワイン試飲会に参加していた。今は仕事で絡んでいるわけではなく個人的に誘われただけだが、大事な人脈のひとつだ。途中で帰るわけにはいかない。


「瀬名さん」


 声をかけられて振り向いた。小柄なスーツの女性が立っている。主催の輸入会社の社長秘書だ。会場から少し離れていたので、探されてしまったらしい。


「失礼しました、お電話中でしたか?」
「ああ、はい」
 

 手にしたスマートフォンを軽く掲げて見せてから、内ポケットに入れる。


「妻も、飲みに行っているようで、終わったら迎えに行こうかと」


 そうしよう。あの二人が男女関係なく仲が良いとはわかっていても、ふたりきりにするのは面白くない。
 女性秘書に答えながらそう決めた。


「あら、奥様もたまには羽を伸ばしたいんじゃありません? わざわざ迎えに行ったりして、煙たがられたりはしませんか」


 クスクスと笑われた。そうだろうか。いや、でも今まで無関心を装いすぎたのだから、ちょっと鬱陶しいと思われるくらいには構っていかなくては。

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