離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 ふたりが並んでいる姿を見ると、ある程度自覚していたよりも妬けた。いや、はっきりと再確認した。これは嫉妬だ、と。


「お疲れ」


 近づくと、振り返ったいずみは驚いた顔をしているものの、さっと間の席を空けてくれる。


「おお、お疲れ」
「お疲れ様です。どうしたんですか?」
「まだ飲んでるかと思って。滝沢にちょっと話もあってな。まだいいか?」


 滝沢の方を向いて言うと、やはり戸惑った顔をしていた。


「ああ、別に。俺はもう腹いっぱいだけど」
「俺も軽く飲めたらいい」


 じゃあ何しに来たんだよ、と言いたげだ。わざわざ飲んでるところに押しかけてまで話さないといけないことがあったかと、思い当たる節がないんだろう。俺もない。
 しかし、いずみも聞いている。それらしく仕事の話を持ち出して、今更再確認のような内容を滝沢に振るとやはり一層変な顔をされたが、特につっこまれることはなかった。

 ひどくみっともないことをしているな、と胸の中で自嘲する。この三年、仕事として結婚を引き受けてくれた彼女に対して、そんな気持ちを抱くことになっては失礼だと思ったから、あえて近づかなかったのに。

 きっと、今の自分の内面を滝沢に知られたら、何をいまさらと呆れられるだろう。そんなことはわかっているが、気持ちを自覚したのがここ一年も経たないうちだ。最初はただ離れるのは寂しいような、うすぼんやりとしたものが、徐々にゆっくりとその輪郭をはっきりとさせていく、そんな進み方だった。

 それは今も続いている。例えば、今までなんとも思っていなかった、滝沢と飲みに行った、ただそれだけのことで嫉妬して思い知らされるくらいに。
 
< 110 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop