離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「……わかった、もういい」
するとあまりにほっとした顔をするものだから、思わず言ってしまったが。
「だけど、これだけは伝えておく。俺は、この結婚を続けていきたい」
その後、少し追い詰め過ぎただろうか。だけど、彼女自身が感じ取っている答えを、彼女に口に出させたかった。そうでなければ彼女は踏み出さないような気がした。
ふと、三年前の彼女のことを思い出す。契約結婚を彼女が提案してくれた時、若い女性らしくないことをけろりと言ったのだ。
――私は結婚に憧れとかまったくないんです。寧ろ一度くらいは結婚歴があった方が世間的にも良いかと思って。
あまりにもドライなことを良い笑顔で言われた。今になって、あの時の彼女の言葉が気にかかってくる。だからこそ、一度ここで引いておくべきかと思った。
扉が閉まりきる瞬間まで、目をそらさなかった。顔を真っ赤に染めたまま、彼女はぽかんと俺を見つめていた。頬にキスまでしたのだから、もう考えることから逃げるにも逃げられないはずだ。
それは俺も同じだが。こちらはもとより、もうなかったことにするつもりはないのだから、それでいい。
寧ろ開き直って、明日からの一カ月半が楽しみになってきていた。