離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「……和也さん?」
「いや。ごめん」


 さっきまでは真っ直ぐこちらを見ていた彼が、口元を抑えたまま俯いた。


「……まさかそんな可愛い反応をされるとは思わなかった」


 訝しんでいると、和也さんがそんなことを言って肩を揺らす。からかわれているみたいで、かあっと体中が熱くなった。


「か、可愛いとかも普通早々言いません」
「そうかな。ごめん」


 ごめんと言いつつ、和也さんの肩はまだ揺れている。だけどよく見れば、髪から覗く耳が赤かった。


「……赤いですよ」


 悔し紛れにそう言えば、即座に言い返された。


「いずみには負けるよ」


 言われなくてもわかっている。耳も顔も火照って仕方ないから。
 和也さんがようやく口から手を離して、顔を上げる。ぱちりと目が合うと、はにかむような笑みを浮かべた。

 息が止まりそうで、胸が苦しい。赤い顔も照れくささも隠しようがなく、私はギブアップすることにした。


「……部屋に帰っていいですか。もう休みます」


 逃がしてくださいと言わんばかりだけれど、彼はあっさりと許してくれた。


「いいよ。おやすみ。カップ片付けるから置いといて」
「ありがとうございます」


 カップを置いて立ち上がろうとする。けれど、その手を不意打ちで捕まれた。


「週末、滝沢を呼ぶのは無し」
「は、いっ……」


 そう返事をしなければ離さないと言われているようで、咄嗟に答える。すると彼は笑みを深めて、すんなりと手を離す。


「お……おやすみなさい」


 鼓動が早くて、少しも治まらない。背を向けてリビングを出るまで、彼の視線に捕まっているような気がしてしょうがなかった。

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