離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 部屋に逃げ込んで、身体の力を抜いてベッドの上に転がる。顔の熱が、なかなかおさまってくれない。


「……一カ月」


 この状況を、一カ月。とてもじゃないけれど、逃げ切れそうにない。なら、向き合って考えるしかないだろう。

 ……逃げたい?

 自分に問いかけると、逃げたいのはあの慣れない照れくささや気恥ずかしさからであって、和也さんからではない。真剣な想いを向けられることは嬉しかった。私は確かに、和也さんに惹かれていた。

 ただ、どうしても考えてしまうのは、自分がまさか本当の結婚を迫られるとは思っていなかったということで。
 寧ろ、離婚したらその後はもしかしたら生涯結婚しないかもしれないなくらいに考えていた。

 ……離婚しない、となると、本当の夫婦になるってことでしょう。つまり、これから結婚するかどうかという結論を迫られているのと同じだということだ。
 どうしても、そこで、気持ちにブレーキがかかってしまう。結婚、夫婦、家族、そういったものと、私はどうも縁が薄い。

 こういう場合、本当なら母親にでも相談出来たらいいのだろうけれど。
 もう何年も顔を見ていない母親は、娘の相談に乗るようなタイプでもない。父親の方は、大学費用出してくれたけど……。結婚すると報告したところで、どっちも「おめでとう」と電話で終了ってとこだと思う。悩みなんて話せる親子関係ではなかった。

 かといって、相談できるような友人も。社会人になってから築いた人間関係ばかりだし、どこから漏れるかわからないから、会社に無関係の友人にも聞かれたら普通の職場結婚をしたと報告していた。

 偽装だと知っているのは、滝沢さんだけだ。だけど出来たら同じ女性の方が、相談しやすい。滝沢さんは話しやすいけど、あくまで飲み友達だった。

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