離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 出来れば結婚経験のある、信頼できる人間。
 そう考えて、ぽんとひとり頭に浮かんだ人物がいた。私が勤め始めて暫く後に、事務方で入ってくれた佐伯さん。今は結婚して姓が変わったけれど、会社では旧姓で通していた。

 彼女は、私が秘書の仕事に専念するようになってからもずっと、結婚後も事務で働いてくれている。

 木曜夜、仕事の後に佐伯さんを飲みに誘ってみるとあっさりとOKが出た。もうずっと飲み会にも出ていなかったので、久々に飲みたい気分だったらしい。


「それにしてもまさか、こんな気弱ないずみさんを見ることができるなんて」


 私から見て彼女の印象は、人の恋バナは大好きだけれど「秘密だ」と言ったことはちゃんと守ってくれる。
 個室居酒屋の一室で、私は現実をちょっと捻じ曲げて様子を見ながら、相談することにした。佐伯さんは、嬉しそうに含み笑いをしながらビールのグラスを傾けている。

 よほど私が『相談したいことがあって……その、夫婦のことで』と言った時の顔が、面白かったらしい。失礼な、こちらは真剣に悩んでいるのだ。


「それで? 一体、何をお悩みで? あの社長を捕まえておいて」
「うん……」


 何をどう言おうか迷っていると。


「何? まさか社長が浮気でもした?」


 うっかり和也さんにあらぬ疑いをかけられそうになったので慌てて否定した。

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