離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

「え?」
「私の両親ってかけおち結婚だったんだけど」


 とてもかけおちしてまで結ばれたとは思えない、冷え切った夫婦の姿を思い出しため息をつく。
 不意に両親の話を始めた私だったが、佐伯さんは特に気にせず話を聞いてくれた。


「えっ。すごい、かけおちって実際あまり聞かない」
「けど、物心ついた時にはもう冷めきってたのよ、仲良いとこなんて見たことない」


 和やかな会話をしているふたりなんて記憶の中に見つからない。さすがに私の前で喧嘩することはなかったが、無視しているか、そもそもふたり揃っていることが少なかった。
 子供の時はそんな状況が当たり前で、途中からは母親も働きだしたから、どっちも家にいない。一度、酷く母親が酔っていた時がある。その時の愚痴で「ああ駆け落ちだったんだ」と知ったくらいで馴れ初めもちゃんと聞いたことはなかった。


「それはまた……ハードな育ち方ですね」
「そうかな? 最初からそうだったし、別に育児放棄はされてないし……でも大人になったら思ったことがある」


 考えてもわからない。いくら考えても、わからない。


「駆け落ちした時の、その熱量は一体どこいったの? 子供生まれたら燃え尽きた?」
「ぶっ」


 私が心底不思議そうに、眉をしかめながら言ったのがおかしかったようだ。だけどしかし。大人になればよくわかる。実際に何もかも捨ててかけおちするのは、かなりの情熱がなければ不可能だ。
< 129 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop