離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「迎えに行くとメッセージを入れたのに、まったく返事がないから」
「本当ですか? ごめんなさい、佐伯さんがすっかり酔っぱらっちゃって送るのに手がかかってしまって」


 まったく気づいていなかった。申しわけなくて眉尻が下がる。靴を脱ぎながら腕時計を見ると、もう十一時を過ぎていた。確かにこれは、心配をかけてしまったかもしれない。


「いずみは? それほど酔ってないのか」
「結構飲んだんですけど、佐伯さんの酔いっぷりを見たら冷めたというか」


 話していると、私がしっかりと受け答えしていることにほっとしたのか和也さんの表情が緩む。
 本当に、心配してくれていた。それが伝わってくるのは、なんともくすぐったくて。気の抜けた笑顔を見せた彼に、私は少しだけ素直に、言葉が出た。


「ありがとう、心配してくれて」
「そりゃ、するだろ。次からは、ちゃんと携帯チェックして。店出る時でもいいから」
「次、って」


 一人暮らしが長かったし、ここに来てからもルームシェア状態だったからこういうのは照れ臭い。彼が『次』と強調して言ったのが、離婚予定日よりも先のことを含めているのが伝わってくることも。


「……うん。気を付けます」


 和也さんが、少し目を見開いた。
 離婚予定日まで、あと一カ月もない。三週間くらいだろうか。急には変われないけれど、自分が少しずつ、すでに変わって来ていることを自覚した。だったら、まだ猶予があるそれまでの間に、少しだけ勇気を出してみたかった。自分の変化を、受け入れて、みようか。


「ただいま、和也さん」


 ぎこちないながらも笑ってそう言うと、少し遅れて彼も笑った。かと思ったら、腰をかがめて顔を近づけてくる。

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