離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 キスの距離感だ、と頭はすぐに感知する。だけど咄嗟に、避けることも目を閉じることもできないで、息だけを止めた。
 お互いの気持ちは、目や態度から伝わっていて、後は私の覚悟だけなのだと言葉がなくても感じ取れていて。

 もう、このまま唇を寄せられたら、私はきっと流される。
 このまま堕としてしまおうかと、黒い瞳が迷っているのがわかる。

 唇に当たった吐息が熱くて、思わずぎゅっと目を閉じた。次の瞬間に柔らかなキスが触れたのは私の両目の間だった。

 軽いキスはすぐに離れて、その代わりとばかりに力強い腕が私を抱きすくめる。


「そんなに怖がるな」


 抱きしめたまま、片手がぽんと私の頭に置かれた。そのまま宥めるように髪を指で梳いてくる。


「……和也さんが怖いわけじゃないです」


 ぽつりと素直に呟いた。


「じゃあ、いつか、いずみを悩ませているものが何か教えてくれたら嬉しい」


 和也さんは私が抱えている心の問題を、確信ではなくても漠然と感じ取っている気がした。その上で、ぐいぐい押しては肝心なところで引いてみたりして見えるのは、試されているのだろうか。それとも、和也さん自身が迷っているからなのだろうか。
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