離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「それでは、失礼します」


 第三者がいては話しにくいだろうと、席を外すことにする。和也さんが何かを言いかけたような気がしたけれど、私は黙って会釈して執務室を離れた。

 近頃和也さんと過ごす時間が増えて、彼はよく自分の育った環境のことなどを話すようになった。滝沢さんから又聞きである程度は知っていたけど、彼本人の口から聞くことでより確かな彼自身の性格形成を知れたような気がした。

 兄弟の一番上だからか、手をかけさせられないと思ったのかなんでもひとりでやってきたようだった。そして長男らしく、面倒見が良い。

 親しくしていた幼馴染のことも、とても可愛がっていたようだ。そういう性格も、良いと思う。自分のことは自分で決断して進んできたから今があるのだろうし、ついてきた社員を大事にしていることにもつながっているんだろう。それなのに。

 ……なんで、こんなにモヤモヤするんだろう。胸が重苦しい、というか。

 もうすぐ結婚する幼馴染。マリッジブルーという話だし、別に気にする必要もない。ただ、結婚前の不安を頼れる幼馴染に吐き出して、すっきりしたいんだろう。
 ちゃんとわかっているのに、どうしてか着信音が鳴ると胸が苦しくなる。

 私が「気にしないからどうぞ」と言って、一度目の前で電話に出たことがあった。彼が早く話を終えたそうに不機嫌にしていると、なぜか少し気が楽になった。
 そんな自分が、すごく性格が悪い気がして。慌てて、気持ちを切り替える。その電話さえなければ、和也さんとの時間はすっかり私になくてはならないと思わせるものになってきているのだ。

 そしてその電話は、今だけ。今だって、別に毎日かかってくるというわけじゃないんだし。その幼馴染が結婚式を迎えてかかってこなくなったら、こんな気持ちもなくなる。
 だから、これを私たちのことの判断材料に加えてはいけない。

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