離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 そしてそこにまた、新たな情報が持ち込まれる。


「まあ、瀬名はこないだ会ってわかってたみたいだし。今日はきっちり説教するって言ってたから、会社にまで押しかけてくることはもうないと思うよ」


 ――会った。こないだ?

 まったく知らなかった情報に、衝撃を受けて滝沢さんを見上げた。


「ああ、こないだの土曜日に急に呼ばれたって……知らなかった?」


 知らなかった。土曜日といえば、袋煮を作ろうとして急遽和也さんに予定が入った日だ。それほど長い時間ではなく結局夕食の時間には帰って来ていたけれど。


「いずみさん?」
「え、あ、はい」


 呆然として立ち止まっていた私を、不思議そうに滝沢さんが振り返っている。返事はしたけれど、頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

 あれ? なんでこんなに、胸の中が苦しいんだろう。別に、嘘をつかれたわけじゃない。知らなかっただけ。私に黙って、幼馴染に会いに行っただけ。


「飯、どこ行く? いつものとこ?」


 動揺している私に、滝沢さんは気づかない。
 飯? 今、とても食事のことなんて考えられないし、今滝沢さんと一緒に行って、自分が何を口走るかもわからない。

 こんな程度のこと、ショックを受けるほどのことでもないじゃない。浮気されたわけでもあるまいし。そもそも、私たちは浮気だなんだ、言う関係じゃない。

 そうだ、元々はそうだったんだ。期限が来れば、ただの社長と秘書に戻る。その予定だったんだ。

 はっとそのことに気が付いた時、滝沢さんの目が「あ」という声とともに私の背後に向けられる。一拍遅れて、後ろから肩を掴まれて驚いて顔を上げた。

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