離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 握られていた手を振り払った。立ち止まると、驚いた顔の和也さんが私を振り返る。

 いやいやなんで驚いてるの、これ、私怒るの普通じゃないの? そんな意外そうな顔をされたら、私が悪いみたいじゃない。

 和也さんの表情ひとつにもすごく、ものすごく腹が立って込み上げてくる感情をどうすることもできなくなった。


「帰りません。今日は帰らない予定にさせていただきます」


 咄嗟に被った秘書の仮面だったが、これはなかなか便利だなと思った。相手が和也さんでも秘書モードなら言いたいことが言えてしまう。


「和也さんも、どうぞお戻りください。大事な幼馴染なんですから、きちんとお迎えが来るまで面倒を見てください」


 頼りなげな雰囲気の人だった。確かに放っておけないような印象はある。多分、私の方が年下なのにそう感じるのだから、彼から見ればもっとそう思えるのじゃないだろうか。私よりはよほど、可愛げがある。

 もやもやする。むかむかする。暗い感情が胸の奥から込み上げてくる。だけど、感情的に話してはいけない。こういう時こそ、冷静に理詰めにするのが鉄則だ。

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