離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「こっちに」
「えっ」
強く腕を引っ張られて、抵抗したけれどまったく歯が立たない。甲斐なくどこまで連れていかれるのかと思ったら、すぐ傍のビルの隅、少しでも人の目を避けられるような空間だった。
そこで少し目が覚める。冷静に、と思っていたつもりだったのに、ここは往来だということを理解していなかった。少しも冷静ではない。
「隠れて会いに行ったわけじゃない。正直困惑していたんだ、婚約者も来るというからこれを最後に」
「だから別に会いに行かれたことを怒ってません!」
かっと頭に血が上って、声を荒げた。感情塗れの声だった。だめだ、冷静になれと心は必死で止めるのに、次々に言葉が出てきそうになる。
その時、和也さんの手が私の肩を撫でて宥めた。その優しい手に、なぜか涙が込み上げそうになる。
穏やかで愛情に満ちた、そんな家を作れるのかもしれない。そう思えたのは、彼の仕草が態度が、いつもとても優しさに満ちていたからだ。
それなのに、ひとつ嫌な部分が見つかっただけでこんなにも怖くなってしまう。
「わかってる。俺が、説明したいだけだ」
和也さんの目が、必死になっているように見える。それもなんだか、必死にならなければいけないような、後ろめたいことがあるような気がしてしまう。