離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「私に、あんな思わせぶりなことを言って、それでも他に大事な幼馴染もいて。和也さんにとって大事って何? 全然わからない」
「麻耶はただの幼馴染だ。それ以上でも以下でもない」
「大体、その麻耶って何?」
「え」
ここで和也さんが、戸惑った声を出す。
言ってしまった、と思った。とうとう、一番かっこ悪い嫉妬の感情。
「そんな呼び方、どうしてするの? 気になる私がおかしいの? 何? 幼馴染だから? ただのっていうけど、幼馴染っていう絆だけで全然『ただの』じゃないから」
心の中が真っ黒に染め上げられている。涙がたまっているみたいに重苦しい。
人を好きになるって、こういうこと。
優しい時間だけじゃない。穏やかな気持ちだけじゃない。変わってしまった両親を思い出した。私は、こんな風に真っ黒になりたくなかった。こんな風に真っ黒になる自分を見られたくなかった。
あまりのいたたまれなさに、私は両手で顔を覆う。涙は、まだ出ていない。それだけが救いだ。
「……それから?」
和也さんの声が、静かに先を促す。まだ私に喋らせたいらしい。全部全部吐き出させなきゃ気が済まないのだろうか。だったら本当に、酷い。