離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「いやいや、いつでも来ていいとは言いましたが……何がありましたか」
もう帰ってくれていて助かった。インターフォンを鳴らすとほどなく佐伯さんは出て来てくれて、私の顔を見て数秒間ぽかんとしていた。
和也さんの前で泣かずにすんだ私は、結局タクシーの中で涙腺を決壊させてしまった。その割に冷静な部分もあって、きっちり一度家に帰ってから十分とかからず仕事用のスーツと下着と化粧品をキャリーバッグに詰めてからここに来ている。
佐伯さんは、困惑しながらもすぐに私を部屋に上げてくれた。
「……ごめん、突然来ちゃって。無理ならビジネスホテルにでも泊まるから」
本当ならその方が良かったはずだ。いくらなんでも突然すぎるが、とにかく今日はひとりでいるよりも誰かと話したかった。
腫れぼったい瞼で項垂れる私を、部屋の中央のラグの上に座らせるとクッションを寄越してくれる。ぎゅっとそれを抱きしめると、ほろほろほろとまた涙がとまらなくなって。
「……嫌なことばっかり言っちゃったっ……」
嫉妬して、ぐちゃぐちゃになった自分を全部見せてしまった。ずっと心の中にあった黒いモヤモヤは嫉妬だったのだと、言葉にしながら認識したようなものだった。
泣き過ぎて頭がぼんやりして働かない。そんな私を相手に上手く話を引き出し、結局私は三年前の偽装結婚のことまで全部白状してしまった。
ぐずぐずと泣いて話す私は、子供みたいだったと後から佐伯さんが言った。確かにきっと、私は子供みたいなものだろう。恋だとか愛だとか、そういうものから逃げていた。たとえ誰かと付き合っても、今までちゃんと気持ちに向き合ったことがなかったのだと、思い知らされた。
恋なんて愛なんて、ちっとも綺麗なものじゃないのだ。