離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
結婚に関して彼女を頑なにさせている、何か。その漠然としたものを、いつか彼女が話してくれたら。そのことにばかり気が向いていた。
寂しく思うくらいなら、もっとふたりの時間を充実したものにすればいい。今は、関係の改善のために時間を費やす方が先決だ。
しかし、麻耶からの電話は段々と鬱なのではないかと思うくらいに情緒の安定しないものになってきていた。
こんな話し方をする奴だっただろうか?
学生、しかも高校生の頃から会っていないので、はっきりと思い出せないが。あまりこちらの話を聞かない。それから、落ち込んでいるのかと思えば、急にテンションの高い口調で飛ばすときもあった。
これは、少しまずいかもしれない。そう思っていた時に、土曜日に急に連絡が入った。
『彼にね、幼馴染に会って欲しいって頼んだら了承してくれたの!』
以前に、婚約者に会って判断して欲しいというようなことを言われていたのを思い出した。いくらなんでもそこまで俺が出ていく必要をまったく感じないし、何より相手にあまりにも失礼だ。まさか本気でそれを実行しようとは思わなかった。
『お願い! どうしても今日なの! 和くんに会ってもらえたら私も安心できるし』
会社のことで午前中だけ出かけた帰り道の電話だった。呆然としている俺を置き去りに、電話の向こうはテンションが高い。
今日は、帰ったら袋煮をふたりで作ろうと計画をしている。こんな約束は却下だ、と思ったが。
――相手の男に会えるなら、その方が解決になるか。
大体、麻耶のめちゃくちゃな要求に応じるその男がどういうつもりなのか、麻耶の様子にこちらも困惑していることを伝えたかった。
「……わかった。ただ、そんなに時間は取れない」
会って、麻耶とではなく相手の男と話をつける必要がある。そう考えた結果の選択だった。