離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
「ご迷惑をおかけしてます」
そういって差し出された名刺を受け取る。硬い表情で会話を始める俺たちと違い、はしゃぐ様子の麻耶の目は、異様にキラキラとしてうんざりとした。
久々に向けられた、あからさまな視線がまさか昔からの知り合いのものになるとは。
弓木さんから話を聞くと、仕事が忙しくあまり相手にできない間に情緒不安定になり、その時に偶々、数年前の経済誌に載っていた俺の写真を見つけたようだ。
それからは明るくなったので、安心していたらしいが。こんなことになって申し訳ない、と頭を下げられた。
思っていた再会と違う空気を感じて、焦る様子の麻耶には一切目を向けず、目の前の弓木さんにだけ意識を向ける。彼女の行動の責任者であると自覚してもらうためだ。
「俺も既婚者です。今後、このようなことがあると困りますので、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言うと、弓木さんは本当に申し訳なさそうに再び頭を下げてくれて、俺はそれを慌てて止めた。この会話で本当に自覚して欲しいのは、彼よりもまず麻耶本人なのだから。
麻耶には、結婚していることは電話で話していたはずだ。それなのに、どことなく呆然として見えるのは、幼馴染なのだから気安くしても許されると思っていたのかもしれない。残念ながらその気安さは許される範囲を超えている。