離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
どうやら、会社の上司絡みの縁だったようで。彼の方もそれほど情熱的には結婚を望んでいたわけではない雰囲気は察せられた。
この状況で破談にでもなれば、こちらが困った事態になる予感しかない。しかし彼は結構義理堅い人物のようだった。こんな失礼な真似をした麻耶だが、見限るつもりはない様子に安心した。懐の深さに驚いた。俺にはちょっと……無理だ。
夕食の時間までには帰ることができてほっとした。男の方は至極冷静で、話の通じる相手で良かったと思う。
「おかえりなさい、早かったですね」
玄関で出迎えてくれたいずみの顔を見て、ほっと心が和む。
「ただいま、今日はごめん」
「いえいえ。明日の方が丸一日家にいるんだし、ゆっくり作れていいですよ」
袋煮の約束を一日伸ばしたことを謝ると、あっさりと許してくれた。彼女に限っては、もう少し拗ねたり我儘を言ったりする面も見てみたいと思うのだが。
この日の出来事を、いずみに話すか一瞬だけ悩んだが、すぐに止めた。今後は麻耶から連絡があれば弓木さんに伝えることになり、彼もしっかり諭しますと約束してくれている。
俺の交友関係に興味のなさそうないずみにわざわざ説明するのも言い訳染みているような気がしたし、ふたりで過ごす時間に水を差すのも嫌だった。
「そうだな、楽しみだ」
頷いた俺は、よほど嬉しそうな顔をしていたのか、いずみは照れたような困ったような笑顔を浮かべる。
「いえ……袋煮作るだけですよ?」
「一緒に作るよ。材料は大丈夫か? 足りなければ一緒に買い物に行こう」
離婚予定日まで、残り二度しかない週末だ。貴重な時間に違いなかった。