離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
翌日、ふたりでいる時に着信があり、嫌な予感はしたが見れば麻耶ではなく弓木さんからのものだった。前日の謝罪とふたりで十分話し合ったという報告を聞き、それでようやく麻耶の結婚を祝福する気になれた。
既に実家同士の付き合いはなくなっている。これでふたりが無事に結婚すれば、もう問題はなくなるだろう。
安心したのが間違いだったとわかったのは、それからわずか数日後だった。
執務室で着信が鳴る。もう無いだろうと思っていた麻耶からの着信で、思わず眉根を寄せた。いずみは何も気づかなかったように、秘書の微笑みで会釈し執務室を出ていく。
「それでは、失礼します」
「いずみ……?」
なんとなく、その時のいずみの表情がどうしても気になって、呼び止めようとしたがそれより先に扉が閉まった。
仕方なく、ため息を吐いて手の中のスマートフォンを見る。今後はしばらく応じないと言っておいたのに、と苦々しい思いで着信が止むのを待つ。それほど長い時間ではなかったし、何度も繰り返されることもない。
応じないと言ってあったのだから、それで諦めるだろうと思ったのが甘かった。
夕方、いずみからの連絡を受けて、滝沢と共に帰社を急いだ。麻耶のことで困っていることと、土曜に会ったのを最後にもう関わらないということを滝沢にも伝えてあった。
「麻耶ちゃん、もしかして瀬名への恋心を思い出しちゃったのか?」
「は? 馬鹿言うな、昔からそんな関係じゃない」
「まあ、瀬名はそうだよな。にしても、まさか会社まで来るなんてなあ。しかもギリギリ仕事中の時間狙って来るのって……」
滝沢も、少しただ事ではない雰囲気を感じたらしい。
来客ブースの並びのひとつに、麻耶の姿を見つけると、滝沢は突然くるりと進行方向を変えた。
「じゃ、いずみさんには俺が知らせとくわ」
滝沢がなぜかそんなことを言って、そそくさといなくなる。
「おい! 滝沢……!」
はっきりと聞いたわけではないが、滝沢はいずみに好意を抱いていると近頃確信を持つようになった。どうも、離婚予定日を境にいずみにアプローチするつもりのような気がしている。
長い付き合いだから、なんとなくわかってしまった。だから、滝沢といずみをあまり近づけたくないというのに。
焦って後を追おうとしたが、俺の声に気づいた麻耶に呼び止められて、結局滝沢に追いつくのが遅れてしまった。