離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

「……あの、もしかして今のが和くんの奥さん?」


 おずおずとそう言った麻耶に視線を向ける。ようやく少し目が覚めたようで、顔色が悪い。


「弓木さんから、実家の番号も聞いてる。もう俺に連絡しないで、まっすぐ自分の結婚にだけ意識を向けろ。でないと親に連絡を入れる」


 彼の上司と麻耶の親が絡んでの縁談ならば、親に事の次第を話して弓木さんも知ってのことだとわかれば、困るのは親の方だろう。


「どういうつもりで俺に連絡を取ろうとするのか知らないが、昔のように甘ったれた幼馴染の相手はもうごめんだし、結婚する予定なのに他の男に接触しようとする君が理解できない。浮気相手でも欲しかったのなら他を当たって欲しい」


 仕事で構ってくれないからと、都合よく寂しさを埋める相手を探して俺を見つけたのだろうか。考えてみれば、婚約者の品定めをして欲しいと言い出したのも、俺が電話対応ばかりで現実には会おうとしなかったからかもしれない。
 幼馴染の感傷があればうまくいくと思われていたような気がする。いい迷惑だ。頭に血が上ったことにプラスして、こうでも言わなければわからないだろうとわざと傷つける言葉を選んだ。
 男女としての感情があったことは、親しかった時も一度もない。ただ単に結婚の連絡だけなら、懐かしさを感じる思い出で済んだのに。
 昔を思い出せばやるせない感情は浮かんでくるが、ただそれだけだ。


「……酷い! そんなんじゃない。あんな風に冷たくされたから、どうしても修復したくて来ただけなのに。昔はあんなに優しかったのに、連絡絶つ方がひどいでしょう⁉」

「旦那に黙って来たんだろう? 分別のある大人だと思ったら、俺もこんな対応はしないよ。大体、これから旦那になる人の愚痴を他の男に零す行為自体、失礼なことだと思わないのか。一度や二度ならともかく、何度もあると下心を疑われても仕方ないと思うが。俺はちゃんと話し合えと何度も言った。向き合わなかったのは誰だ?」

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