離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 顔を真っ赤にして目尻を釣り上げた彼女にそう言うと、ぎゅっと唇をかみしめて黙り込む。情緒不安定なところに言い過ぎたかもしれないが、俺にだって守りたいものがある。


「俺にも妻がいる。変な誤解をされたくないんだ。本当にもうこれっきりにしてほしい」


 返事はなかったが、耳には入っただろう。顔を背けたままじっとしていた。あとは、弓木さんが引き取りに来るのを待つだけだ。放置して後でもつけられたらかなわない。


「……あのさ、ふたりって、もしかして、予定どおりじゃない感じ?」


 話が途切れた隙に、今度は滝沢がおずおずとした様子で切り出した。さっき、俺がいずみのことを「大事な人だ」と言ったからだろう。滝沢がいずみに好意を寄せているのだと確信した上で出た言葉だった。


「たとえどう転んでも、俺の大事な人だ。手放すつもりはない」


 予定日のことを暗に示す。たとえいずみと仲違いしたまま、止められなくて離婚することになり夫婦という形をとれなくなっても、彼女を諦めるつもりはない。その時は、最初からやり直す。そう決めている。その気持ちは、彼女を逃がしてしまった今、一層強くなった。

 だって、そうだろう。
 あんな風に、全身で傷ついたと訴えてくれたのは初めてだった。もちろん、そんなつもりはなかったけれど、あれがいずみの素顔なのだと思えば、罪悪感と同時に愛おしさも込み上げる。

 あんな姿を見せられて、手放すなんてできるはずがないのだ。

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