離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 滝沢から、申しわけないと告白されたことがあった。いずみに対して「瀬名は幼馴染を特別可愛がっていた」と、若干誇張して伝わるような言い方をしてしまった、というものだった。

 離婚が成立したら、いずみに告白するつもりでいたらしい。だからつい、気持ちが揺らがないようにと口をついて出てしまったという。それから、土曜日に会ったこともどうやら滝沢から聞かされたらしい。ふたりで会ったと誤解しているかもしれないから、まずそれも説明した方がいいと言われた。

 正直腹も立ったが、滝沢が何を言おうと言うまいと、恐らく俺たちのこの現状は変わらなかっただろう。いずみが気にしてようといまいと、もっとちゃんと説明しておくべきだったのだ、俺が。

 翌日、いずみはちゃんと出社してきたが、業務連絡以外のことは一切話そうとはしない徹底ぶりだった。
 その頑なさに、業務時間での会話は諦めることにした。メイクで隠してはいるものの、泣いた後のわかる目元に、やはり胸が締め付けられそうになる。
 仕事上がり、会社を出てすぐのところを捕まえようとした。ところが、察知されてまたしてもタクシーに飛び乗られてしまう。

 だが、佐伯さんのところに泊まっているという情報はすぐに知ることができた。彼女の方から「家で預かってますからご心配なく」と知らせてくれたのだ。どうにか会わせて欲しいと頼んだが、これも無駄だった。


「すみません、本人が会いたくない内は会っても無駄かなって……なんせ頑固な性格じゃないですか」


 申し訳なさそうに眉尻を下げ、しかしきっぱりと断られてしまう。


「……わかった。迷惑でなければ、そのまま泊めてやってほしい。来週には話をすることになってる」
「それって、例のアレですよね?」


 その言葉で、佐伯は俺たちの事情をある程度いずみから聞いたのだと察することができた。


「俺はそのつもりはない。ただ、いずみはその日にしか話す気がないんだろうな」
「そうですね。離婚届持って突撃の予定です」


 思わず、頭を抱えたくなった。



 真っ暗な部屋に帰宅して、まだたった二日だ。一人暮らしの時は慣れていたはずなのに、いずみがいないだけでひんやりと冷えたように感じる室内が、虚しかった。彼女が座っていたソファの上に、ふたりで遊んだタブレットがある。ただただ、彼女に会いたかった。

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