離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす

 翌朝、オフィスに行くと当然和也さんにも会う。たった一晩なのに、なんだか顔色が悪い。眠れなかったのだろうか、とちくりと胸が痛んだけれど、何も言えなかった。

 必要最低限の接触しかしなくても報連相だけ欠かさなければ、それほど仕事に支障は出ない。
 あと、いつもと様子が違ったのは滝沢さんもだった。仕事の合間に呼び止めて、昨日のことを詫びるとちょっと周囲を見渡したあと、人の少ない通路まで行き小声で話す。


「ごめん。俺、余計なことばっかり言ってて……」
「えっ? いえ、昨日のことでしたら私の方が……食事に誘ってくださっていたのに、勝手に帰ってしまってすみません」


 話しながら、段々と恥ずかしくなってくる。どこまで見られていただろうか。途中から道の端に寄ったけれど、それほど離れてはいなかったはずだ。
 あの言い争いが聞こえていたかもしれないと思うと、顔が茹るように熱くなった。
 けれどなぜか、滝沢さんの方が本当に申し訳なさそうな顔をして、必死で謝ってくる。


「いや、俺……てっきりふたりは予定どおりなんだと思ってて」
「え……」


 言っている意味がわからず、首を傾げた。予定どおり、というのは私たちの結婚期間のことを指しているんだろう。人の気配はないものの、一応考慮して話してくれているのだ。そして予定通りに事が進んでいたことは、間違いじゃない。私たちの間にあった感情の変化を、彼は知らなかったのだし。

< 170 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop