離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
つまり、和也さんは私が逃げ出して、離婚届を出しに行ったかもしれないと思ったようだ。
「和也さんのとこ、記入もハンコも押してないままですよ?」
「……ああ、そうか。そういやそうだ」
納得してくれたらしい。首筋でぼそぼそと呟いているのだが、それがちょっとくすぐったい。
「……寝ぼけてた」
きっとかなり慌てていたんだろう。あの時、車のキーを持っていたのに、あの出入口にいたということは車で探すか足で探すかも迷いながらの行動だったということだ。
近辺にいるなら、歩いて探した方が細かい道にも入りやすい。佐伯さんのところや区役所に行くなら車の方が早い。
「すみません、驚かせて」
「もういなくなられるのはつらい。拗ねても怒っても泣いてもいいから、逃げるのだけはやめてくれ」
とても切実な声でそう言われて、うっかり置手紙をしなかったことよりもさらに大きな罪悪感を持ってしまった。
これってつまり、この一週間逃げ続けた私のせいではないだろうか。若干トラウマになってしまったらしい。
「……はい。もう逃げません」
「……よろしく頼む」
「はい」
和也さんの背中に手を回して抱きしめ返した。