離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
和也さんは、コーヒーカップを口元に近づけ、目を伏せていた。その様子をつい見つめて、首を傾げてしまう。
仕事のことなら大抵ピンと来るし、この件も仕事に準ずることでもあるのだが。私が思いつかないところで悩む要素があるかもしれないが、それならそれで隠す必要もない。
それに寧ろ、彼にとってもそろそろ婚姻関係は解消した方がいいはずなのだけど。何を考えることがあるんだろう。
その時、ふっと視線が上向いて私と目が合った。
「どうかしたか?」
聞きたいのはこちらだが、逆に聞かれてしまった。
「何か不都合があったら言ってくださいね? 私はこれまで通り仕事を続けさせてもらえればそれでいいし、用意していただけるのはありがたいですが、物件探しくらいは自分でできます」
私は特に急ぐ理由もないのだが、やはりここはきちんとしておきたい。彼に物件を探す時間や労力がないなら私が自分で探せばいいのだ。
和也さんは何か責任を感じているみたいだけれど、本当に保証人の欄だけ埋めてもらえればそれで充分、責任は果たされると思う。
しかし彼はコーヒーカップをテーブルに置き、背もたれに身体を預けると頭を振った。
「どんな物件がいいか考えていた」
「え、そんなことですか?」
考え込む内容がまさかのそれで、かくんと力が抜けてしまった。
「セキュリティが万全のところがいいだろうし。仕事人間のいずみのことだから通勤に時間がかからないところがいいだろうなと」
「できればそういうところがいいですね」
それを考えれば、今住まわせてもらっているこのマンションは実はとても都合が良かった。朝はほとんど彼の車で一緒に出勤していたのだが、それでも時間にして十五分。帰りは和也さんの付き合いや仕事の兼ね合いもありバラバラだったが、駅まで十分もかからず乗り換えなしでトータル二十分ほどの通勤時間だ。帰路の途中にスーパーもあったりする。