離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
しかし、同じ水準のところに住むのは私には無理だ。
「一番便利なのはこのマンションなんだけどな」
「そうですねえ、でもひとりじゃとても家賃払えないですって。あ、お給料に文句を言いたいわけじゃないですよ!」
笑いながらそう言って、それから手を膝の上で揃えてぺこりと頭を下げる。
「お給料は能力分以上にいただけています」
私から言い出したこととはいえ契約で結婚させてしまった、と彼が責任を感じているのを知っている。しかし、仕事上でも生活上でも、私に不利益はまったくなかった。お給料も十分なほどいただいている。その感謝の気持ちを伝えたくて、真面目な口調で出た言葉だったのだが。
ふうっ……と酷く長い溜息が聞こえた。
「社長?」
何か気に障ったのだろうかと顔を上げる。その瞬間、額に軽い衝撃を感じた。
「いたっ!」
驚いただけで大して痛くはなかったけれど、反射的に額に手を当て正面を見る。和也さんがこちらに身を乗り出し、手を宙に掲げていた。デコピンの形で。
「な、なんでデコピン」
しかも、なぜだか少し拗ねたような表情になっている。