離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
まちがいなく二けたくらい女侍らせてそうだとか失礼なことを思ったものだが、実のところ目立った女性関係の噂は聞かなかった。
だから尚更、女性が騒いでいたのだろう。
大学内で誰もが知る有名人だっただけで、知り合いというわけではないから彼が卒業した後は当然、どうしているのかもまったく知らなかった。
顔を見て思い出したくらいだ。
「で、富樫いずみさん。いつから来れそう? 」
学生の頃よりもぐっと大人っぽく色香を漂わせる彼は、さっと履歴書に目を通しただけで私の採用を決めてしまった。なんでも、自分の部下の紹介ならそれを信用する、と最初から決めていたらしい。
ちょっとかっこいいことを言っている、と思ったけれど、実際のところは人材を選んでいる余裕もないくらいに忙しかっただけではないだろうか。
勤めてみて、すぐにわかった。
仕事内容は秘書業務と聞いていたのだが、いざ入社してみればとんでもなく忙しい。なるほど、これは妊婦には酷だという仕事量だった。
急激に仕事が増え始めているところで、秘書業務と事務を兼任してほしいと最初から言われてはいた。小さな企業では、別段珍しいことでもないと聞いたことがあったからだ。
「それにしたって人手不足にもほどがあります!」
「仕方ないんだ、瀬名が女性社員に関しては慎重だから」
「……どこが?」
一緒に起業したスタートメンバーのひとり、滝沢周治さんに思わず八つ当たりして、返ってきた言葉にあきれた声を出してしまった。
あの面接の、一体どこが慎重だったというんだろう。