離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
酔ったフリをしてしなだれかかってくる女はたくさんいる。そういうタイプには辟易していたはずだし、本当に酔っていたとしてもあまり近寄りたいとは思わなかった。
打算や下心が透けて見えて、そういうのが嫌になり尚更仕事に打ち込んで来て、そんな状況だったから、秘書として雇った富樫いずみという女性の人柄を心地よく思えたのだ。
――それなのに、今更。出会ってもう、何年が経っていると思ってる。
今更、彼女を女性として意識した。そうならない為に保っていた距離でもあるのに、それを詰めたくなってくる。
――いや、これは恐らく、気の迷いで。
長く仕事ばかりしてきた、その反動だ。いや、その反動で目に毒になる女が秘書というのはまずいだろう。
まずい。仕事がしづらくなる。彼女は大事な秘書で仕事のパートナーなのだから。何より、会社の為にと自分と結婚までしてみせた彼女の献身に、応えなければならない。
いずみを女性として意識したその日からは、そんな風に自分に言い聞かせる毎日だった。
これ以上近づいてはいけないと、日々自制する。だから、彼女と酒を酌み交わす夜は、そう多くなかった。増やしてはいけない。
しかし、感情というのはままならないもので、距離を置こうとするのに誘われれば応じてしまう。そうしたら、お返しにと次の機会を考えて、そんなことを繰り返してまた気づく。
このひと時が、自分にとって必要な時間になっているから、同じことを繰り返す。
秘書としてではない“富樫いずみ”との時間を、必要だと思っている。
じわじわとそのことを自覚させられた。それと同時に、近づく偽装結婚の終わりを心待ちにするようになった。