離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
 今彼女が名乗っている“瀬名”の姓が酷く虚しい。所詮今の婚姻関係は業務でしかなく、そんなことを秘書にさせるしかなかった自分が情けなかった。ずっとその気持ちが消せないまま過ごしてきたせいだろう。

 自分の中で決めた節目が、彼女と約束した契約期間終了である三年目の結婚記念日だった。

 契約が終われば、彼女を縛るものはなくなる。ふたりで過ごす時間が業務ではなくなるのだ。業務であるうちは、伝えるべきではない。その間は、たとえ家でも自分は彼女にとっては上司という立場なのだから。

 業務としての期間が終わって初めて、彼女に傍にいて欲しいと自分の願いを伝えられる気がした。

 彼女の気持ちは、わからない。が、心のどこかでうぬぼれていたのかもしれない。『あの時間』は彼女にとっても業務ではなく、俺と同じほどでなくても心地よくは思ってくれているだろう、と。


『そろそろ、契約期間が終わるので。その後の話をしなければいけないと思いまして』


 いずみが友人からお土産にもらったという、レーズンバターサンドをふたりで食べようとしている時。離婚予定日まであと三か月という頃だった。
 その声があまりにも淡々と、そして秘書としての彼女らしくからりと割り切って聞こえたものだから、思わず手が止まる。

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